インクルーシブな場づくりに向けてーこの春の6つの実践
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- 6月1日
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五月が終わった今、達成感と安堵の気持ち、そしてこれから展開していきたい活動を考えてワクワクしています。
この4月末から5月にかけて、「多文化間コミュニケーション(インターカルチュラル・コミュニケーション)」をテーマに、計6回のワークショップを開催しました。そのうち5回は英語で、1回は日本語での開催でしたが、日本語での開催は私にとって初めての試みでした。内訳は、私自身の主催によるものが3回、勤務先の大学で講師として行ったものが2回、そして同僚講師に招かれて既存の研修プログラム内で行ったものが1回です。
また、コーチングとメンタルヘルスをテーマとした英語でのオンラインワークショップも2回開催しました。これについては次の機会に書きたいと思います。
多文化間コミュニケーションへの思い
「多文化間コミュニケーション」というテーマは、私にとって非常に思い入れのあるものです。フィールドを主にした国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)での勤務を休業してオランダで別の国際機関、化学兵器禁止機関(OPCW)に勤務していた2018年頃、「国際機関でのこういう仕事はもう自分がやるべきことではないなあ」と強く感じていました。とはいえ、「では何ができるのだろう、何をしたいのだろう」と自問する日々が続いていました。その中でまずはっきりしていたのは、自分がこれまで多文化環境で生活し、働いてきた経験を活かしたいという思いでした。
そんな時に出会ったのが、「カルチュラル・インテリジェンス(Cultural Intelligence – CQ)」という概念でした。2019年4月、CQのトレーニングを受けるためにロンドンを訪れました。その数か月前と後に、それぞれ「これだ!」と確信する出会いがありました。それが、ファシリテーターとコーチという職業です。この二つは、やがて私の活動の核となっていきました。
2021年9月から始めた大学講師としての仕事では、ちょうど「インターカルチュラル・コミュニケーション」という名前のクラスを大学生に教える機会に恵まれました。授業を準備する中で出会った良書には今も助けられており、自分の経験を織り交ぜながら、それをカリキュラムの一部として体系的に教える面白さを味わいました。
その後、カリキュラム刷新により「インターカルチュラル・コミュニケーション」というタイトルそのもののコースはなくなったのですが、多文化間コミュニケーションを大学生のうちから学ぶことは重要だと信じる他の同僚と共に、新しいカリキュラムの中にどうその概念や実践を織り込んでいくか、今日に至るまで、日々試行錯誤を重ねてきています。同時に、大学主催のイベントや、同僚が実施する大学外での研修プログラムの中でもワークショップを開催してきました。
インクルーシブな場づくり
今年初め、4月にイギリスのバーミンガムで開催される国際ファシリテーターズ協会(IAF)イングランド&ウェールズ支部のカンファレンスでワークショップをしようと応募を考えた際、まず頭に浮かんだテーマがこの「多文化間コミュニケーション」でした。カンファレンスには、イングランド&ウェールズだけでなくヨーロッパ各地からプロのファシリテーターが集まります。そんな方々と共有したい、伝えたいと自然に浮かんできたのが「多文化の集まりをよりインクルーシブに」──英語では Holding Truly Inclusive Meetings というテーマでした。
二十五年前に日本を離れて以来、世界のさまざまな国や地域で生活・仕事をする中で、実に多種多様な「集まり」に参加し、また、運営の側に携わってきました。少人数の会議から、大規模なカンファレンス、各種研修やワークショップ等です。中後半には自分がそうした集まりをオーガナイズし、構成を考え、ファシリテーションを担いました。参加者も、難民の方々から政府関係者まで実にさまざまでした。
本当に、すべての参加者が、発言や沈黙の時間を含めて心地よく過ごせる場を自分は作れていただろうか、つまり「インクルーシブな場づくり」ができていただろうか──そして、そこには多文化・異文化間特有の難しさが確かに存在していた──そんなことを、ファシリテーターという職業に就いてから改めて振り返り、深く実感するようになりました。
国際カンファレンスでの挑戦と学び
この4月のバーミンガムでのカンファレンスでは、私自身の学びと経験を共有することに焦点の一つを置いた、今まで行ってきたワークショップを総括するような内容を提供できたと思っています。以下に、参加者からいただいた感想の一部を(英語原文からの私訳で)紹介します。
あなたの素敵な話し方と、ご自身やご自身のストーリーをグループのために活かそうとする姿勢がとても印象的でした。
カンファレンスで一番気に入ったセッションでした。
本当に素晴らしいセッションでした。一日中受けていたかったくらいです!共有された経験、フレームワーク、そしてディスカッションの組み合わせがとても良かったです。
Chizuさんの誠実さと正直さに感謝します。
一方で、次のようなフィードバックもありました。
「ワークショップというよりは『教室』のように感じました。また、話す人に偏りがあったように感じました。」
これは、大学講師・ファシリテーター・コーチという三本柱で活動している私にとって、改めて心に刻むべき重要な学びであり、本当にありがたいフィードバックでした。
日本語での初ワークショップ開催
さて、このワークショップを日本語で初めて実施したのが、IAF日本支部のファシリテーション週間プラスの一環として行った、オンラインワークショップでした。参加登録者のお名前から、日本人がほとんどであると想定していました。内容は、これまで英語で、まさに「多文化」な背景を持つ参加者と共に行ってきたワークショップに、「日本人の方々に特にお伝えしたいこと」を加えて構成しました。
結果的には、本当に楽しく、学びに満ちた時間となりました。IAF日本支部に後援していただいたおかげで、日本でファシリテーターとしてご活躍の方々にもご参加いただき、ワークショップ中や後のフィードバックフォームを通じて、多文化間ファシリテーションに関するプロの視点からの示唆や学びをいただきました。そして、これからも繋がって一緒に学んでいけるであろう方々との出会いもありました。ご縁に心から感謝しています。
日本で活躍されているファシリテーターの方からは、次のような感想もいただきました。
今日は、これまで自分が独学で取り組んできたことが報われるような時間でした!
知らなかったキーワードも多く、大変学びが多かったです。千津さんの静かで穏やかで、偏りのない(ように感じられる)ファシリテーションがとても心地よかったです。

オランダ政府職員との対話の機会
さて、今回もう一つの「初めて」の経験だったのが、オランダ人の大学講師である同僚、マルセルさんに招かれ、オランダ政府職員の方々を対象に、このテーマでワークショップを実施したことです。マルセルさんとは大学内でときどき顔を合わせる仲ですが、きっかけは意外なものでした。私が、このテーマでオンラインワークショップを行ったことをリンクトインに投稿したところ、それを見た彼から「ぜひこのワークショップをお願いしたい!」とメールが届いたのです。
このワークショップは、「王国カリブ地域の知識と理解(KBCK)」というトレーニング(リンクはトレーニングのサマリーのリンクトインポスト(オランダ語)です)の一環として実施されました。オランダ王国は、カリブ地域にあるかつての植民地を含む地域を抱えており、文化的な多様性に富んでいます。そうした背景を持つ地域との関わりの中で仕事をされている方々と、「多文化間コミュニケーション」について対話を持てたことは、私にとって本当に貴重で興味深い経験となりました。
マルセルさんからは、以下のような感想をいただきました(リンクトインより転載。原文オランダ語、以下は私による訳です)。
コース「王国カリブ地域の知識と理解」で特に印象に残った言葉は、「コミュニケーション」と「関係性」でした。それは、波乱に満ちた歴史を背景にした異文化の文脈においてのことです。千津さんは、文化的にダイナミックな環境でチームをファシリテートするための知識と理解を、参加者たちに届けてくれました。彼女は、まさに的を射たアプローチをしてくれたのです。
理論は一見するととても論理的で当たり前のようにも思えますが、実際に王国内の関係の中で働くことは決して簡単なことではありません。しかし、今日提供された実践的なヒントによって、確かな一歩を踏み出せると感じました。マーシャ・ダンキ(ありがとう)、千津さん!

「マーシャ・ダンキ(masha danki)」は、カリブ海にあるオランダ領で話されているパピアメント語(Papiamentu)の表現で、「どうもありがとう」「本当にありがとう」という意味だそうです。
これから始める、新しいまなびのかたち
ここで、「ああ、なんとか終わってよかった」で終わらせるのではなく、「これから始めていきます」と、それぞれのワークショップの参加者のみなさんにお伝えしたことを、いよいよ本当に始めていきます!
具体的には、まず、「多文化の集まりをインクルーシブに」することの大切さ・価値について考えながら、ファシリテーターとしてのスキルを学ぶ講座を開催する予定です。
そして次に、その講座を受講いただいた方々を中心に、お互いの経験や知見を定期的に自由に交換できる「まなびのサークル」のような場を設けたいと思っています。ここではあえて「研修」や「トレーニング」といった言葉は使わず、参加者同士が共にに学び合える空間を目指します。
これらを、英語と日本語それぞれで開催していく予定です。どうぞご期待ください。具体的なスケジュールが決まりましたら、改めてご案内いたします。
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