ヒューマニタリアン・コーチング - ジュディスのトランジション
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- 8月12日
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更新日:8月30日

「ヒューマニタリアン・コーチング」とはどういうものなのか、これから何回かに分けて書いてみます。まずは、ジュディスの紹介です。
ジュディスと私の出会い
私とジュディスが出会ったのは今から二年前の2023年7月。ヒューマニタリアン・コーチング・ネットワーク(HCN)という、現役の人道・開発支援従事者と経験豊かなコーチをつなぐプラットフォームから、クライアントとコーチとしてマッチングしてもらったのです。
ジュディスはマイグレーション・マネージメントの分野で15年の経験を持つプログラム・マネージャーで、主に国際移住機関(International Organization for Migration - IOM)で勤務してきました。そんなジュディスですが、今年になって彼女の従事するプログラムに対するアメリカ政府の資金打ち切りのため、人員削減の対象になり、ジュディスは長年勤務したIOMを退職することになりました。
そうなのです、まさに「元」人道支援従事者となったのです。この、「トランジション」を、彼女はとても冷静に、落ち着いて受けとめ、人生の次のチャプターへ向けて歩き始めています。
二年前マッチングを受けてからまず驚いたのは、マッチングが決まってすぐに届いた彼女からのメッセージです。
金曜日の最初のセッションに向けて、準備しておくことがあれば教えてください。
プロボノ(無償)でのコーチングに臨むクライアントから、こんな熱心な連絡を受けるのは、実はあまりないことなので少し驚きました。その後、私からコーチング・メモ(コーチングとはどういうものなのか、といったことを説明した文書)を送ると、またすぐにこんな返信が届きました。
コーチング・メモを共有してくださりありがとうございます。内容を確認し、理解しました。
これらの返事から、ジュディスがどれほどコーチングに期待して、始めから律儀に取り組む姿勢だったのか、明らかでした。しかも、コーチングを受けるのはこれが初めてだったのです。いや、もしかしたら初めてだったからこそ、これほどまでに前向きな姿勢を示してくれたのかもしれません。
HCNからあらかじめ受け取っていた情報によると、ジュディスはコミュニケーションやレポート作成といったスキルをコーチングで伸ばしたいと考えているとのことでした。私自身もUNHCRで働いていた経験があるので、「姉妹機関」にあたるIOMのスタッフと関われるのは嬉しいことでした。彼女が「現地採用(ナショナルスタッフ)」だったことも、私が強く関心を持った理由の一つです。
「ナショナルスタッフ」と働くということ
私は約20年間、いわゆる「国際採用のスタッフ(インターナショナルスタッフ)」として国連で働いてきました。その間、さまざまな土地で、本当にたくさんのナショナルスタッフと一緒に仕事をしましたが、今に至るまで続いている素晴らしい人間関係を築けた人もいれば、残念ながら課題の残る関わり方をしてしまったこともあります。
国連の仕事を離れることを念頭にしてから、そして実際に離れてから、私は自分について振り返るワークに取り組んできました。コーチとなるためのトレーニングと今に至るまでの継続した学びはその一つでもあります。そうする中で、インターナショナルスタッフとして勤務していた当時の自分は人と人との本当の関係を築くことについて未熟で、本当に不器用だったと痛感しています。その未熟さと不器用さの影響を受けたのは、ナショナルスタッフの同僚たちでした。
今でも各地で共に働いた彼らを思い出し、自分の傲慢さについて、コミュニケーションが下手だったこと、そして友人としてもっと心の底から本当には寄り添えなかったことについて謝りたい気持ちになることがあります。
また、国際機関のこの制度そのものについても大いに疑問を感じるようになっています。国際採用だからといって、自動的にナショナルスタッフの上司になる仕組みはおかしいのではないか。管理職としての訓練を受けていないインターナショナルスタッフが多く、実際には現地スタッフの方が経験もスキルも豊富であるケースが少なくありません。これについては別の記事で改めて書きたいと思います。
ジュディスとのコーチング・パートナーシップ
こうした背景もあって、私はジュディスとのコーチングに新たな熱意を持って臨みました。2023年に4回、2024年に7回、2025年に3回と、2年間で計14回のオンラインでのコーチングセッションを行いました。その経緯をへて、私は彼女のことを深く尊敬するようになり、常に心から応援したいと思うようになりました。
コーチング・パートナーシップは、信頼関係を育み、それを根底に協働するプロセスです。コーチングの目的にもよりますが、一回一回のセッションで取り組むテーマはキャリアに限らず、本人が話したいことなら人生のどんな側面にも及ぶことができます。
オンラインでジュディスとのコーチングをする私は、当然のことながら彼女の日常業務を直接見たことはありませんが、同じ国連の現場を経験してきた者として、彼女の高いプロフェッショナリズムを簡単に想像できます。彼女の勤務地であるジンバブエの状況を詳しく知っているわけではありませんが、近隣のザンビアやアンゴラでUNHCR職員として働き、IOMと協働した経験もあるので、彼女の現場の厳しさを想像することができます。
2024年前半、私たちは彼女のキャリアのリフレクションに一緒に取り組みました。ときには新しい可能性に目を向け、自分の道を考え直すこともあれば、昇進を目指して模擬面接をしたりすることもありました。その1年前にコーチングを始めたばかりの彼女でしたが、この頃までにはコーチングの力を実感し、楽しむようになっていました。「コーチングって、仕事だけじゃなく人生のあらゆるテーマで役立つんですね」と気づいていました。

「理想的な」クライアント
ジュディスのすごいな、というところは、コーチからの質問を受け、内観するうちに自然に洞察があふれ出てくることです。まさに「理想的な」クライアントでした。会話のやり取りをしていて、「今、話しているうちに、こんな考えが浮かびました」と言うのですが、これは自己洞察が深い一つの証です。
彼女が昇進を手に入れた時、私は「彼女なら当然」と感じながらも心から祝福しましたが、それに対する彼女の返答は意外に慎重なものでした。「アメリカの大統領選挙の結果次第では、仕事の継続に影響があるかもしれないので、心の準備をしているんです」と言うのです。時は昨年の夏前でした。当時の私は笑って「そんなこと、ありえないですよ」と返したのですが…
2025年の年明け、私の年始メッセージに対する彼女からの返事には、「IOMを離れる準備をしているので、あなたにコンタクトを取ろうと思っていたところです」とありました。15年間取り組んできたプログラムが、やはり、資金停止によって終了するというのです。
さて、ここ数ヶ月で嵐のように吹き荒れている人道支援、開発支援の専門家たちの失職。そのうちの一つの現実が、ここにあります。国連機関の高いプロフェッショナリズムを持つナショナルスタッフが、ドナー国の政策転換によって職を失うという現実です。
ジュディスのトランジション
この現実を前に、今年の3回のセッションでは、彼女はこれまで培ってきたスキルや、自分がやっていてワクワクするような仕事とその理由を改めて見つめ、将来の方向性を探りました。その中で、予想していなかった新しい気づきも次々に現れました。これこそがコーチングの力です。
深いところに眠っていた洞察が、コーチからの問いかけを通じて自然に浮かび上がってくるのです。
私がいつも感心していたのは、ジュディスの律儀な姿勢です。毎回のセッションの冒頭で、前回の気づきをどう使い、何に取り組み、どうなったかを報告してくれるのです。コーチングを本気で受け止め、得たものを最大限に活かそうとしている心構えを感じました。
そして最近、彼女から「新しいチャンスを得ましたよ」と嬉しい知らせが届きました。彼女のような真のプロフェッショナルのことなので私の方ではあまり驚きはありませんでしたが、それでも心からおめでとうと伝えました。
あなたのサポートのおかげで“やればできる”という態度と気持ちをまなびました。
という、私への感謝の言葉さえ送ってくれました。
ジュディス、一緒に歩んできた時間はコーチの私にとっても大きな学びであり、喜びでした。本当にありがとう。
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